研 究Research
主な研究
① 脱炭素社会を実現する木造ビルの普及促進に資する高耐震・制震化デバイスの開発研究
脱炭素社会の実現、地域経済の活性化のため、中高層建築物の木造化が国策として推進されており、大断面集成材を柱や梁に用いる木質ラーメン構造の普及に大きく期待が寄せられているが、木質ラーメン構造は平面計画の自由度は高いが柱梁接合部が剛節ではなく回転バネでモデル化される半剛節であり、水平剛性やエネルギー吸収能力、靭性能が低いという欠点があり、広く普及させるためにはこのことに対して合理的な解決策が必要である。また、ビル用などの大規模建築物や木造住宅といった小規模建築物向けの制震ダンパーは多く開発されているが、本研究開発の対象としている木質ラーメンのような中規模建築物向けのダンパーは現在までのところ存在しない。
本研究開発の目的は、4~6m程度のスパンで3層程度の木質ラーメン構造を想定し、高減衰ゴムを用いた制震ダンパーと摩擦機構を組み合わせた高耐震・制震化システムを開発し、地震応答の抑制効果を総合的に検証することである。さらに、減衰を適切に考慮できる限界耐力計算による構造設計例を作成するとともに、許容応力度計算と同等の作業量で限界耐力計算を行うための設計支援ツールを開発する。
木造建築物の建設時に排出する二酸化炭素の量は、鉄骨造や鉄筋コンクリート造の建築物の1/4~1/3程度である。また、木材中に固定されている炭素は、樹木が生長する過程で吸収した二酸化炭素であるため、本研究開発の成果を通して建築物に木材が多く用いられ長寿命化することができれば、地球温暖化防止に大きく貢献する。
「本研究は、今年度 公益財団法人 JKAの研究助成を受け、実大レベルのダンパー性能試験を実施します。」
② 多種の木造住宅向け制震装置の性能検証を通した耐震性能評価手法の開発研究
木造住宅を対象とした制震装置は、2011年の東北地方太平洋沖地震を契機に開発が盛んになり、現在では、大手住宅メーカーだけではなく、小規模な工務店が手掛ける木造住宅にも多く搭載されるようになっている。しかしながら、制震装置による地震応答の低減効果が適切に算定されている例は非常に少ない。木造住宅の制震装置の多くは、住宅のX、Y各方向で2箇所程度しか設置されておらず、また、2階建の場合、2階には設置されない。これでは、耐力壁全体の耐力に対する制震装置の負担耐力は、10%程度かそれ以下である。このような形で制震装置を利用しても、大地震時に木造住宅の応答変位や損傷を抑制できるとは考え難い。これは、設計に用いることのできる制震装置の性能特性(荷重-変位関係)が不明であり、また、工務店が利用できるような制震効果の評価法がないためである。
木造制震の現状は、制震装置の効果を適切に評価できていないため、制震装置の効果を過大に謳った広告宣伝が散見されており、制震装置の特性を活かした設計がなされていない。これでは、大地震時に制震装置が効果を発揮できず、制震技術に対する信頼が損われる可能性がある。学術的にみて適切な制震効果の評価法を構築し、健全に制震技術が利用されるように、普及・啓発されるべき時に来ている。また制震装置は、一般的に、繰り返し載荷でも性能が低下しにくい特徴があり、制震装置が適切に設計されて搭載されていれば、大地震後でも木造住宅を継続して使用できることも広く周知していかなければならない。
そこで、本研究では、申請者らがこれまで行ってきた振動台実験結果をもとに、静的載荷実験によって多種の制震装置の性能を把握し、制震装置を搭載した木造住宅の地震応答を高い精度で計算できる手法を構築する。また、工務店向けの地震応答の計算手法のマニュアルや、住宅購入者に向けた普及・啓発用の資料も作成する。申請者らのこれまでの研究によって、耐力壁が繰り返し地震荷重を受けると、剛性が低下していくことが分かっているが、本研究によって、複数回大地震に遭遇しても安心して継続使用できる木造住宅が増えると、持続可能な未来の実現につながる。
「本研究は、公益財団法人 大林財団の研究助成を受けて行われました。」
③ CLTを使った新しい木造住宅用構造システムの開発研究
日本の小規模戸建住宅のほとんどは木造であり、そのうちの75%(およそ40万棟/年)は在来軸組構法と呼ばれる建て方で建設されている。この構法(建て方)は、基本的に柱や梁といった軸材を組み合わせた骨組が建物の自重や積載荷重を負担し、骨組に設けられる筋かいや釘打ちされた合板などの耐力壁で地震力や風圧力といった水平荷重に抵抗するものである。近年は、要求される耐震性能が高まっていることから、多くの耐力壁が設置される傾向にあり、断熱性能を向上させるため、開口を少なく、壁を多くする傾向がみられる。さらに、地震時の揺れを小さく抑えるため、耐力壁は分散して設けることとなっており、近年の在来軸組構法では、柱や壁が多くなり、開放的な空間は実現できなくなってきている。
そこで在来軸組構法の床や屋根といった水平構面を剛なCLTに置き換える「在来軸組CLTフラットスラブ構法」を考案した。この構法では、在来の土台及び梁(横架材)をなくして柱を少なくすることが可能であり、耐力壁の配置にも制約が少なくなり、南側を開放するようなプランも可能になる。さらに、CLTの特徴を活かした広いバルコニーが実現でき、遮音性能の向上、工期の短縮も期待できる。
これまでに、本構法の各部の仕様を検討し、CLTの面外曲げ実験や接合部のせん断実験、引張実験等を実施し、これらの実験結果をもとに、モデル住宅の静的荷重増分解析を行った結果、大地震においても2階床構面のCLTや接合部に損傷が生じないことを確認した。また、このモデル住宅は、建築基準関係規定に適合していることが確認された。
「本研究の一部は、建築研究開発コンソーシアムの研究支援費を受けて行われました。」
在来軸組CLTフラットスラブ構法住宅の
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④ 全壊した木造住宅の耐震・断熱アップグレード手法の有効性検証
(硬質ウレタンフォームを吹き付けた合板耐力壁の耐震性能評価手法の開発研究)
本研究では、地震後に全壊と判定されるような大きな損傷を受けた木造住宅の復旧後の耐震性能を検証する。復旧に用いる方法としては、主に外周壁内に硬質ウレタンフォームを以下の写真のように吹き付け充填する。
硬質ウレタンフォームは断熱材として広く用いられており、木造住宅においては、外周壁の構造用合板などの内側から吹き付け、充填することによって、繊維系断熱材よりも高い断熱性能、高い気密性が得られる。この硬質ウレタンフォームを充填した壁のせん断加力実験により、耐力壁に匹敵する剛性を有することを確認している。
これまでは、建物の地震被害が大きくならないよう、事前の耐震補強に関する研究が行われてきましたが、本研究で対象とするのは、被害を受けた後の復旧技術である。この方法によると、建物の耐震性能だけでなく、断熱性、気密性も向上するため、実質的には元の性能以上となる「アップグレード」であり、地震後も安心して快適な生活を送ることができる。さらに、これまでは全壊した木造住宅は取り壊されて廃棄物となっていたが、継続して居住できるようになることで、廃棄物が大幅に減ることも期待できる。
「本研究の一部は、民間企業の研究支援費を受けて行われています。」
⑤ サステナブルな街づくりを目指した木造住宅制震構造標準化を可能にする制震デバイスの開発研究
木造住宅の耐震要素で重要となる筋かいに着目し、鋼材の履歴減衰と高減衰ゴムの粘性減衰を組合せたハイブリッド機構の制震デバイスを開発した。建物の揺れ幅を最大95%低減し、大地震による木造住宅の損傷を防ぎ、繰り返し起きる余震にも効果を発揮し、耐震と制震ができる家づくりを実現する。従来工法と変わりなく設置でき、設置コストを抑えつつ、高い制震効果を発揮する。
「本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構 A-STEP等の研究助成を受けて行われ実用化されました。現在普及に向けた取り組みを実施しております。」
(参照:https://om-seishin.com/)
(参照:https://www.kaneshin.co.jp/tech/seishin/dit/)
ハイブリッド機構制震デバイス
⑥ 木造住宅を対象とした地震時の揺れ幅検出および損傷度評価システムの開発研究
地震等により木造建築等の構造物が被害を受けたときに、その構造物の最大変位及び危険度を、専門家でなくても地震後速やかにかつ簡単に判断することができ、電力等の供給を必須とせず、装置構造が簡易で複雑なメンテナンスが不要で、耐久性に優れ、装置の小型化を図ることができる相対変位表示装置を考案した。
現在装置の試作を終えて実際の建物に設置し、地震経験時の作動状況を確認している最中である。
⑦ 木質構造の耐震診断・耐震補強
研究室の地域貢献活動として、木造住宅などの木質構造の耐震診断ならびに耐震補強の相談があった際に、アクティブラーニングの一環として学生とともに現地に赴き耐震診断を実施し、耐力が不足している場合には耐震補強の提案を行っている。